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中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリ失速の背景に関する一考察

On the Decline in Neutral Electronic Marketplaces incorporating B2B Directories

山本千雅子* 岸 邦宏** 佐藤馨一***
Chigako YAMAMOTO, Dr. Kunihiro KISHI, Prof. Keiich SATO

*正会員 北海道大学大学院工学研究科博士課程
**正会員 北海道大学大学院工学研究科 助手
***正会員 北海道大学大学院工学研究科 教授


This paper reports the results of a demand survey on a multilingual B2B directory conducted from June 2001 to June 2003. As of June 2001, neutral electronic marketplaces were expected to prosper, but they had declined by 2003. Many reasons for this were given by marketing firms and researchers. We attributed the decline to the evolution of search engines that make it easy to find potential clients, a major function of e-marketplaces. Extensive surveys on the Internet and other sources confirmed the likelihood of our assumption being correct.

Key words: neutral electronic marketplace, B2B directory, electric commerce, search engine marketing.


概 要 本研究は、2001年6月から2003年6月の2年間にわたる、多言語対応B2Bディレクトリ需要調査の結果を報告する。2001年6月時点では、中立型e-マーケットプレイスと呼ばれるB2Bディレクトリがグローバルビジネスを合理化し、多くの企業にチャンスを与えると考えられていた。また、取引を同期化する金融とロジスティクス・システムの共有で効率化を図るべく中小のB2Bディレクトリの統合が予測されていた。しかし、2003年6月時点では中立型e-マーケットプレイスというビジネスモデル自体が衰退している。文献調査から2002年2月時点には、e-マーケットプレイスは既に企業の興味の対象ではなくなっていたことが明らかになった。 中立型e-マーケットプレイスというビジネスモデル衰退には、多様な要因が挙げられているが、著者らはサーチエンジンの機能向上というイノベーションもその一因と仮定し、多数の文献からその裏付けを得た。

キーワード:e-マーケットプレイス、B2Bディレクトリ、電子商取引、サーチエンジン・マーケティング


1.研究の背景と目的
 
2001年、北米では2000年に年間509.3億米ドル、全世界では657.3億米ドルがe-マーケットプレイスで取引され、2003年には各々2.34兆米ドルと3.98兆米ドルに達するとForester Researchはみていた。ディレクトリという媒体による電子商取引が買い手と売り手の双方に利益を生むという長所を持つ、と考えられていた。
 B2Bディレクトリによる商取引は、対象とする製品やサービスの多様化に加え、インターネットの普及につれて対象地域も国境を超えて拡大した。アジアでは、アジア2Bとセサミ・ドット・コムが2001年に合併し、月間取引高が3億2千万米ドルというアジア最大級の電子取引市場となった。英語・中国語・韓国語を対象としたオンライン輸送サービスと金融サービスを備えたサイトも構築された。
B2Bディレクトリによる電子商取引の主導権を持つことは、付随サービスである輸送や金融における主導権も手にすると予想されたが、日本ではグローバルな多言語B2Bディレクトリ開発の動きは見られなかった。
 こうした背景から、本研究では、B2Bディレクトリを主体とした電子商取引に対する潜在需要と多言語B2Bディレクトリに対する意識調査を行った。


2.電子商取引とは
(1)電子商取引の定義
 
電子商取引の取引高は、調査会社によって大きく異なる1)、2)、3)、4)、5)がこれは定義の違いによる。ファックス、電話、コンピュータシステムを使う取引という定義もあれば、インターネット利用取引とする定義もある。一般的には、オンラインで商品・サービスを販売すること、という合意があり、米国商務省は、支払いがオンラインである必要はない、としている6)

(2)B2Bディレクトリの区分
 
B2Bディレクトリは、大きくバーティカル(vertical)とホリゾンタル(horizontal)に分けられる。前者は、例えば農業など特定業界のニーズを対象とし、後者は旅行や輸送、事務用品の小売りなどあらゆる業界を対象とする商品や原材料、サービスの取引を仲介する。
 また、形態から区分するとオンラインカタログサイトとマーケットプレイスに分けられる。後者は、エクスチェンジサイトとオークションや逆オークションを提供するサイトに分けられる。エクスチェンジサイトは金融市場とほぼ同じ機能を持ち、非常に高度なシステムを利用し、紙製品や電機、電力、ガスなどが取引される。
 AMR ResearchのB2Bディレクトリ進化レベル区分3)によると、情報提供(Information)、取引仲介(Facilitation)、オンライン取引(Transaction)、統合(Integration)の順に高度化していく。この統合レベルに達したB2Bディレクトリを本調査では、「中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリ」と呼ぶ。(一般に独立系あるいはパブリック・マーケットプレイスともいわれている。)


(3)中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリ
 
2001年時点の典型的なビジネスモデルは、電話帳などの印刷メディアで従前から提供されている産業分野別のディレクトリに、サイト内での検索機能とオンラインカタログ、オークション、逆オークション、オンライン決済機能、ロジスティクス・サプライチェーンなどの機能を付加したものである。特記すべきこととしては、中立型エクスチェンジはオープンで誰でも参加でき、ひとつのマーケットプレイスが多様な産業分野(バーティカル)を対象とすることであった。地理的な対象地域によって多言語機能や通貨換算機能を備えたサイトもある。このレベルのディレクトリに参加するには、統合業務パッケージ(EPR)、サプライチェーン・マネジメント(SCM)、カスタマーリレーション・マネジメント(CRM)などを利用した企業の様々な部門や課程の電子化と電子データ交換(EDI)が必要である。

3.米国におけるB2Bディレクトリの変遷
(1)1999年から2001年
 
1999年から2001年にかけてベンチャーキャピタリストは、B2Cが投資回収に苦しんだ事情から、B2Bに注目した7)。米国統計局は2001年の米国における電子商取引の93%はB2Bで、残りの6.7%が小売と報告している8)
 起業家はB2B事業計画を作成し、ベンチャーキャピタルから資金調達し、続々と事業を立ち上げた。また企業のIT投資も盛んでB2B商取引に必要な企業内システムも構築が進むと予想され、電子商取引への期待も膨らんだ。2000年のピーク時にはおよそ1000のマーケットプレイスが乱立した9)


(2)2001年6月の米国B2Bディレクトリ
 
2001年6月における米国B2Bマーケットの観察結果を以下に示す。

a) 2000年4月にAMR Researchは、約600サイトあるベンチャーキャピタルが出資した独立系トレーディングエクスチェンジ(B2Bディレクトリ)が2001年には50〜100に集約されると予測した3)。Forester Researchは、各分野で3社ぐらいしか生き残れず、2001年から2年後に生き残るe-マーケットプレイスは100程度と予測した1)

b) 2000年に多数のB2Bディレクトリが誕生した当時の主な収入源は、取引成立額のパーセンテージによる手数料であった。しかし、B2Bディレクトリの企業ユーザー(売り手)は、段階的な料金システムを求めるようになり、ディレクトリ側は収入源を複数持つ必要に迫られている。

c) 多くのディレクトリが、アプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)の様程を示してきている。これは、いくつかのバーティカル機能を持つ必要性からである。

d) ベンチャーキャピタルに代わって、既存の伝統的大企業からの投資が増えている。提携によって事業規模を拡大できる一方で、当初独立系のトレーディング・エクスチェンジとして持っていた中立性が失われつつある。

e) 商品やサービスの陳腐化と単純な価格競争を嫌う生産者やサービス提供者は、目的にあったディレクトリを求める。


(3)2001年から2003年 
a) ネットバブル崩壊とB2Bディレクトリの失速
 2001年にB2B企業の本格的な淘汰期に入り、閉鎖されたドットコム企業は少なくとも537サイトでそのうちB2Bコマースサイトが約40%を占めた10)。2003年に発表された統計8)ではIT関連の冷え込みは2000年に始まっており、9月11日を契機とする景気後退からベンチャーキャピタルの投資も激減し、多くの中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリが資金難に陥った11)。事業を閉鎖したe-マーケットプレイスB2Bディレクトリの失敗原因は、様々な指摘がされているが、代表的なものをいくつか挙げる。

- 企業のIT化による企業内手続きの電子化とEDIの導入が予想以上にすすまなかった4)、5)、7)、9)
- 総合的な中立型e-マーケットプレイスは、規模が大きすぎて管理・運営が難しく、広範な顧客の需要に適切な対処ができなかった1)、11)
- 潜在顧客が保守的で普及が進まなかった(従来からの取引を尊重した)7)、9)
- 中立型マーケットプレイスが予想されたほど受け入れられなかった4)、7)
- 景気後退期に入り、企業のIT投資が減少した7)、8)、9)
- 競合するサイトが乱立したが、ビジネスモデルで差別化が計れなかった7)
- 手数料を上げた結果、顧客が離れた7)、12)
- 差別化のためにニッチ市場へ参入したが採算がとれなかった7)
 また、「インターネット詐欺被害が増加したためオープンマーケットの匿名性を企業が嫌った」ことも要因と見られる。米国のインターネット詐欺被害の届出は、2000年には16,838件、2001年には49,967件2002年には75,063件と増加し、オークション詐欺が46.1%と一番多い。被害者が最初にコンタクトを受けた方法は電子メールによる勧誘が66.0%でウェブページを被害者が見てコンタクトしたケースが18.7%である13)。このような傾向がオープンな中立型マーケットプレイス離れを加速させ、またマーケットプレイス管理者側も巨大なシステムに監視が行き届かなかったと考えられる。

b)中立型マーケットプレイスからプライベート・エクスチェンジへ
 プライベート・エクスチェンジは、従来から取引を行ってきた企業間のオンライン取引による効率化を目指すものである。1〜数社の買い手が中心としてサイトを構築する、「買い手中心エクスチェンジ」と、同じく1〜数社の売り手がサイトをつくる「売り手中心エクスチェンジ」に分かれる。前者の例としては、自動車業界の共同購入システムがある18)。後者の収入源は広告料、販売手数料とサプライヤーへの情報提供料金である。
 日本でもパナソニックが前者をサプライヤソルーションとして導入している。供給側がプライベート・エクスチェンジに参加するには中立型e-マーケットプレイスに参加するのと同様の企業内手続きの電子化とEDI導入が必須である。米国では、オンライン調達システムを導入した購買側の企業が、資材供給側の導入の遅れに非常にフラストレーションを感じている1)


(4) 2003年6月のe-マーケットプレイスB2Bディレクトリ
 
2003年6月にウェブ上にある中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリを調査するため、2001年中に倒産したとみられるB2Bオンライン・エクスチェンジ・ポータルB2B Markets and Exchanges14)の産業別ディレクトリ内B2B企業リスト245サイトのうち上位50サイトを調べた。2003年6月現在17サイト(34%)が閉鎖され、4サイト(1%)が別業種(ISP/ソフトウェアベンダー)で運営されていた。
 サーチエンジンYahooのディレクトリ検索を利用して、多言語対応マーケットプレイスのサイト数を調べた。「Marketplace」は、18サイトあり、その内訳は、中立型が2、バーティカル型が7、ローカル型が3、宣伝業が1、コンサルタントが2でソフトウェアベンダーが1であった。ウェブ検索では、いわゆる中立型マーケットプレイスが7、特定の産業分野に特化したバーティカルが5、売り手の地域が限定されたローカル型(たとえば中国)が5、ローカル&バーティカル(例えばカナダの陶器)が2、ソルーションプロバイダが3、サーチエンジンが1の合計23サイトであった。明らかにかつてのように数百のe-マーケットプレイスは存在していない。
 2003年現在の多言語対応e-マーケットプレイスの特徴は、分野特化したバーティカル型と特定地域の商品を取り扱うローカル型が生き残っていることである。2001年に予測された事態を通り越して、2003年にはe-マーケットプレイスはASPとしてもほとんど存続していない。
 中立型トレーディングによるパブリックe-マーケットプレイスはごくわずかで、セミクローズあるいはクローズな特定企業(あるいは企業グループ)を対象とするエクスチェンジが増加し、中立性が失われるというよりも、プライベート化している7)


4
. B2Bディレクトリ需要調査
 2001年6月には、大規模なe-マーケットプレイスが統合に向かうと予測されていたがニーズはあると考えられ、ビジネスモデルそのものの衰退は予測されていなかった。本調査では、ニーズを明らかにする目的で、1)パイロット調査(北米環境企業)、2)対面聞き取り調査(Invest in Japan Study Program参加海外9社、3)国内外2000社を対象とするアンケート調査を実施した。


(1)日本語による海外企業紹介B2Bのテストマーケティング(環境分野)
a)調査概要
 
海外企業にアンケート調査を行っても、果たしてどの程度の回答が得られるか疑問であったため、実際にB2Bディレクトリサービスを提供する、というダイレクト電子メールを2001年6月19日(火)と21日(木)、27日(水)に、北米の環境関連企業合計196社に送付し、ウェブサイトへのアクセス数をカウントした。日本企業に比べ北米企業はB2Bがどのようなものであるか既に知っているので、パイロット調査として実施した。

b)調査内容と結果
 
詳細を記したウェブページへのアクセス数の記録を図1に示す。送達されなかったメールは合計19件で、177社にメールが送達された。アクセス数は、6月28日現在で28件、アクセス率は約14.3%で一般的印刷物のダイレクトメールに対する反応率4%よりも高かった。(図1)。
 このサービスに申し込んだ企業が1社あった。同社は日本進出を決定しており、すでに2000年にJETROのトレードショー(東京)にも参加していた。


           
            
図1. ダイレクトメール発信ホームページアクセス数

(2)IJSP参加海外企業への対面聞き取り調査
a) 目的
 
日本進出をほぼ決めている企業が、日英対応ディレクトリと日本進出に際してどのようなニーズを持っているか調査し、海外1000企業を対象とするアンケート票の作成の基礎資料とする目的で調査を実施した。Invest in Japan Study Programは、北海道経済産業局がJETROの協力で実施し、招聘企業は米、欧、豪、中から通信関連企業9社であった。海外企業と日本企業の橋渡しを目的としたイベントが、2001年11月28日(水)に札幌で行われた。

b) 調査の概要
 
同プログラムへの参加は9社だったが、時間の都合で7社を調査した。調査票は海外インターネットアンケート票(添付資料I)と同じである。

c) 調査結果と分析
- 調査対象企業の事業分野
 
ソフト開発関連会社が7社(77.8%)でその他は電機と環境コンサルタントが各1社(11.1%)であった。

- 日本におけるビジネス形態
 
日本で予定しているビジネス形態は、全社がパートナーとのジョイントビジネスを希望していた。
- 情報ニーズ
 
どのような日本の情報を必要としているかについて、下記から三つ選択とした。その結果、日本市場に参入の意思決定をしている海外企業の情報ニーズは(図2)、一番が行政情報(参入しようとする産業分野の許認可等と外国企業を対象とする特別な法律や規制)であった。続いて市場情報と日本の同業者については各4社、税制と金融については3社、そしてわずか1社が翻訳・通訳・日本語ドキュメント作成ニーズがあると回答したが、この企業はすでに日本企業と取引があった。

d) まとめと考察
 
商習慣や宣伝方法についての情報ニーズがなかったのは、パートナーを見つけて日本参入するという戦略から当然である。参入する市場の情報について、「参入しようとしても市場が形成されていなければ難しいので、方針決定に同業者情報は必要」と、ある企業は述べていた。

          
            
図2.日本進出を計画する企業の情報ニーズ

(3)海外企業を対象とした日英B2B需要調査(IT分野) 
a)調査概要
 
環境分野でのテストマーケティングに引き続き、IT分野を中心に海外企業に電子メールでアンケート調査を実施した。IT分野が主体であることから、CGI・ASPによる高機能Web開発を行っている株式会社メディアリュウムとウェブサイトデザイン(構築の企画から製作)の有限会社マッシュネットに協力を要請し、グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社(技術翻訳)との3社でインフォテック-Jという企業グループを作り、独自のウェブサイトを構築した15)。なお、3社共同で取り組む新規市場分野での調査ということで、北海道石狩支庁から「平成13年度地域新産業創造活動事業」の交付を受けた。インフォテック-Jは、他に道内自治体アンケート、海外取引法務、政府支援業務についての公開研究会を実施した。
 需要調査の対象は、サーチエンジンのディレクトリにある企業とし、企業のホームページでメールアドレスを確認してリストにした。また、カナダ企業については、カナダ大使館から各州の産業分野別ディレクトリ(印刷物)を入手した。
 内訳は、IT関連837社、環境関連100社で「Business Questionnaire」というタイトルでインフォテック-Jの3社連名でアンケート協力依頼文書を送付し、アンケート票は、インフォテック-Jのホームページに用意した15)。
 このころ、営業メールをスパムメール(迷惑メール)とみなす人が多くなり、そのための対策を検討した。海外からの営業メールを参考にして、今後の配信を望まない企業には、「remove」と記入して返信するように依頼した。(アンケート票は添付資料I)。


b) 調査結果
 
IT企業には2002年2月14日にオーストラリア200社とイギリス200社、アメリカ37社、2月21日にカナダ300社とシンガポール200社に発信した。エラーメールは58件であったので実質送付されたのは879件と見られる。5社から今後の配信不要というメールを受け取った。発信後のホームページへのアクセス数の推移を図3(a)と (b)に示す。
 アクセス累計は62件でアクセス率は7.1%であった。アンケートへの回答は1件のみであったが、インフォテック‐Jに共同ビジネスを提案するメールを3件受信した。これらの企業はいずれもアジア圏内であった。


         
                   
(a) 2月14日発信分

          
                   
(b) 2月21日発信分

             
図3. 海外企業によるホームページアクセス数

(4)日本企業を対象とした日英B2B需要調査(IT分野) 
a)調査概要
 IT分野の日本企業にアンケート調査を実施した。各社のホームページでメールアドレスを確認し、1116社のリストとした。この調査の直前の1月に、インフォテック−Jメンバー企業の営業メールがスパムとして警報を受けるという事態が発生したため、スパムメール・ガイドラインを詳細に検討した。(アンケート票は添付資料II)。
 万が一、インフォテック-Jのメールがスパムと判断されれば、今後の各社の営業活動に関わるため、ガイドラインに従い、「広告!海外企業との連携を支援するインフォテック--Jサイトのご案内」というタイトルでインフォテック-Jの3社連名でアンケート協力依頼文書を送付した。アンケート票自体は、インフォテック-Jのホームページに用意した。今後の配信を望まない企業には、「不要」と記入して返信するように依頼した。

b) 調査結果
 2002年2月28日に1116社に発信した。エラーメールは53件で実質送付は1063件である。今後の配信不要という回答を60社から受け取った。発信後のインフォテック-Jホームページへのアクセス数の推移を図4に示す。アクセス累計は116件でアクセス率は10.1%であった。


         
            
図4. 日本企業によるホームページアクセス数

c) 結論と課題
 
今回の調査結果から、ダイレクトメールに対する反応は、海外が7.1%、国内が10.1%であった。一般に印刷物のダイレクトメールに対する反応度といわれる4%より高かった。アンケートへの回答はなかったが、ウェブページへのアクセスは得られた。スパムとされないための対策の結果、アンケート調査とは認識されづらくなり、2001年6月には可能であった調査が極めて困難な環境となった。
 2001年6月と2002年2月の調査結果の違いは、海外企業においてこの8カ月の間にB2Bディレクトリに対する考え方や評価が大きく変わったことを示唆する。インターネットのホームページに公開しているメールアドレスへの営業メールに対する考え方が日本でも大きく変化し、スパムとして営業メールへの規制が強化されるなど社会的な変化が起きている。調査結果は、2002年2月には国外ではすでに中立型e-マーケットプレイスがビジネスモデルとしての魅力を失っていたことを裏付けている。


5. サーチエンジン・マーケティングに関する調査
 
「サーチエンジン機能の向上」というイノベーションが、中立型B2Bディレクトリが提供していた「潜在顧客の目にサイトがとまる」、というニーズをより低コストで満たしたことも、中立型e-マーケットプレイス衰退の原因ではないかと著者らは考えた。そこで、サーチエンジン・マーケティングについて、Forester Research1)のウェブサイトの調査報告書とAbout.com15)のバーティカルのひとつであるマーケティングサイトとそこから隔週で発行されているニュースレター(2001年〜2003年)に加え、その他ネット上の文献を調査した。

a)サーチエンジンの変遷
 
サーチエンジンと呼ばれるものは、大きくふたつに分かれる。Yahooに代表される人手によるディレクトリ型とGoogleに代表されるクローラ型(Crawler。スパイダ (spider)とも呼ばれ、日本では一般にロボットと呼んでいる)がある。後者はクローラがウェブ上で見つけたドキュメントをインデクサ (Indexer)で分類し、データベース(Database)に保存する。サーチエンジンの利用者が入力したキーワードをパラメータとしてサーチソフト(Search software)がデータベースからドキュメントを抽出する17)。
 1994年に営業開始したYahooは最古参のウェブディレクトリで、エディタが人手でウェブサイトを分類している。しかし、2002年10月にGoogleが提供するクローラによるリスティングを主なサーチ結果として提供するようになった。現在もYahooディレクトリ内のみの検索も提供している(上記3. 4参照)。
 2001年7月に、サーチエンジンの掲載に課金するシステムをFASTが導入した。わずかな登録料金でネット検索の検出頻度が高くなるこのシステムは多くの企業顧客を獲得した。さらにYahooも導入し、同年12月にはLookSmartも中小企業向けの有料掲載を開始した。同年8月に「サーチエンジン・マーケティングがようやく認められつつある」というレポートが出されている17)


b)順位付け(ランキング)のアルゴリズム
 
各サーチエンジンによって、あるキーワードに対応するウェブサイトが検索で表示される順番が異なる。この順位付けルールをアルゴリズムという。サーチエンジン最適化(SEO: Search engine optimization)とは、このアルゴリズムにウェブページを対応させ、さらにその他の方法も利用してランキング順位を上げる努力のことで、サーチエンジン・マーケティングの第一歩である1)、17)。TrafficMagnet 18)のようにSEOサービスを提供する企業も多数ある。

c)サーチエンジン・マーケティングの手法
 
特定のキーワードに対する検索結果の上部や横に、例えば「スポンサーサイト」としてテキストリンクが表示され、通常はサーチエンジン利用者がそのリンクをクリックした回数に応じて支払う「有料掲載(Paid listings)」と、特定のキーワード検索のときに確実に検索結果にURLが表示されるが、その順位はサーチエンジンのアルゴリズムによる「有料検索表示(Paid inclusion)」、そして上記のSEOがある。SEOは企業のホームページ管理者にとって最重要課題である。
 サーチエンジン利用者は有料掲載や有料検索表示による順位をあまり信用しない1)と報告されているが、結果に応じた支払いを採用しROI(投資収益率)が明確な有料掲載や有料検索表示は企業顧客を獲得している1)、17)
 2003年には米国の93%の企業がサーチエンジンを利用して必要な情報を検索している1)。また、2003年2月現在、業界トップであるGoogleの一日の検索件数は2億5千万件である19)
 2003年6月にバーティカルディレクトリを柱とするサーチエンジンAbout.comで検索した結果、「サーチエンジン・マーケティング」という用語を含むウェブサイトは、815,049サイトで「B2B」という用語の場合は436,546サイトである。これらからもサーチエンジン・マーケティングが広く認知を得て、顧客を確保していることは明らかである。


6. まとめ
 
2001年6月には、世界的なインターネットの普及に伴う電子商取引の拡大により、e-マーケットプレイスB2Bディレクトリは今後の世界経済を動かす中心的なツールになると考えられていた。しかし、2003年6月時点でe-マーケットプレイスというビジネスモデルは既に衰退している。本研究における2002年2月のアンケート調査では前年の6月に比べて半分の割合の海外企業しか興味を示さなかったことは、中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリの将来に悲観的な見方が大方を占めるという当時の企業マインドの的確な反映であったといえる。
 その裏付けとして、e-マーケットプレイスB2Bディレクトリというビジネスモデルの課題についてForester Researchが2002年3月に出したレポート19)では、ヨーロッパのe-マーケットプレイス25社とその顧客30社へのアンケート結果から次のように報告している。

a) 88%のe-マーケットプレイスが赤字である。
b) 60%のe-マーケットプレイスが提供しているアプリケーションの数は、1種類か2種類である。
c) 2001年の売上について解答しないe-マーケットプレイスが40%であった。60%以上が2001年8月からの半年間に料金体系を変えている。
d) 80%のe-マーケットプレイス顧客企業は、2001年におけるe-マーケットプレイス経由の収入が1%以下である。

 これらは本研究での2003年6月の調査結果と同じ傾向、つまりe-マーケットプレイスというビジネスモデルが衰退し、ASPとしても存続していないことと、顧客にとっても売上にさほど貢献していないことからe-マーケットプレイスが予想以上に浸透しなかったことを示唆している。
 これら調査結果から、米国を中心に、2001年時点ではITの導入による効率化で新たな商取引の時代が来ると予想されていたが、実際にはそうした変化は予想された速度では進まず4)、9)、流通・販売・マーケティングの効率化が経済を変えるという予測はいまだ実現していない。企業はオープンな市場からではなく既存の取引先からのプライベート・エクスチェンジによるオンライン調達で効率化を図ろうとしている。また、企業は電子商取引のROIや社会の動向を注意深く観察して導入を検討している4)、9)
 e-マーケットプレイスが苦戦を強いられている間に、「サーチエンジン」の向上というイノベーションが進展し、商品やサービスを求める企業にウェブ検索で目に留まるという提供企業側の目的を、より低コストに、しかも明確なROIを示して実現した。その結果、3. 3に示したその他の要因と相まって、大規模な資本投下と維持費を要し、しかも規模が適切な管理が可能な水準を越え、広範にわたる顧客ニーズに対応することができなかった中立型e-マーケットプレイスB2Bディレクトリというビジネスモデルは衰退したと考えられる。


謝 辞
 
本研究は日本情報ディレクトリ学会の助成を受け実施することができました。関係各位に厚く御礼申し上げます。また、多数の資料の提供を受けたForester Research日本支社、そして北海道石狩支庁平成13年度地域新産業創造活動事業のパートナーである株式会社メディアリュウム、有限会社マッシュネットの皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

参考文献
1) Forester Research at [http://www.forester.com]
2) Gartner at [http://www.gartner.com/].
3) Advmfg.com at [http://www.advmfg.com/press/files/].
4) Rita Tehan, "E-Commerce Statistics: Explanation and Sources", Report for Congress, Information Research Specialist, Information Research Division, Congressional Research Service, The Library of Congress, USA, Updated June 2003
5) Barbara Fraumeni, et al, "Government Statistics: E-Commerce and the Electric Economy", U.S. Census Bureau, June 15, 2000, at [http://www.cnsus.gov/econ/www/ecomm2.htm].
6) U.S. General Accounting Office, "International Electronic Commerce: Definitions and Policy Implications", Mar. 2002 at [http://www.gao.gov/new.items/d02404.pdf].
7) 荒田良平、「米国におけるB2B電子商取引の動向」、ニューヨーク駐在員報告2002年3月〜4月号、JEITA、at [http://it.jeita.or.jp/infosys/f-office/newyork0203/newyork0203.html], [http://it.jeita.or.jp/infosys/f-office/newyork0204/newyork0204.html].
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9) Lee Price with George McKittrick, "Digital Economy 2002", U.S. Department of Commerce, Economics and Statistics Administration, May 2003, at [http://www.esa.doc.gov/pdf/ED2002r1.pdf].
10) Webmergers.com at [http://www.emarketer.com/].
11) Community B2B at [http://www.communityB2B.com/library/fundamentals.cfm].
12) eMarketer at [http://www.emarketer.com/].
13) National White Collar Crime Center and Federal Bureau of Investigation, "IFCC 2002 Internet Fraud Report", The National White Collar Crime Center, USA
14) Markets and Exchanges at [http://www.marketsandexchanges.com/].
15) Infotec-J at [www.infotec-j.com/]
16) About.com at [http://www.about.com/]
17) Search Engine Watch.com at [http://www.searchenginewatch.com/].
18) Traffic Magnet at [http://www.trafficmagnet.com/]
19) David Metcalfe, et al, "eMarketplaces: Rebound And Deliver", The TechStragegyTM Report, Forester Research, March 2002.



添付資料
**********************************************
資料I
海外企業向けアンケート依頼メールとアンケート票
**********************************************
Infotec-J is working on a survey to clarify the needs of non-Japanese companies who are planning to enter the Japanese market. We would appreciate it if you could answer the questionnaire below so that we are better able to provide services for you. All information will be treated as strictly confidential. Survey results will be only presented in statistical analysis form. Thank you in advance for your co-operation.

Infotec-Jは日本市場への進出を目指す海外企業のニーズ調査を行っています。貴社のニーズによりよくお答えするためにアンケート調査にご協力頂けますようお願い申し上げます。貴社の情報を他者に開示しないことを固くお約束しますとともに、調査結果を公表する場合はすべて統計処理の後といたします。ご協力ありがとうございます。

Q1 What is the nature of your business?
どのような事業分野ですか
□ Electronics  □ Manufacturing  □ Software □ Other ______
Q2 Do you plan to do business in Japan?
日本に進出予定はありますか
□ Yes □ No
Q3-5: If you answered "Yes" in Q1
Q3-5は、Q1で「はい」と答えた方のみお答え下さい。
Q3 When do you currently aim to enter the Japanese market? Please check only one of following.
□ Within a year □ In two years□ Not decided yet □ Other ______
□ Already doing business in Japan
下からひとつ選択してください。
□ 1年以内 □ 2年以内 □ 時期はきまっていない □ その他 ______
□ 日本に進出済み
Q4 What business style are you planning? Please check only one of the following.
□ Establish own Japanese branch
□ Find a Japanese partner to from a partnership
□ Find an Japanese agent to distribute the products
□ Selling products via e-commerce
□ Other ______
どのようなビジネス形体を予定していますか。一つだけ選択してください。
□ 日本法人
□ パートナーとなる日本企業を探す
□ 販売代理店を探す
□ インターネットで直接販売
□ その他 ______
Q5 What information about Japan would be useful to you?
Please check only three of the following.
□ Government permissions, laws and regulations related to your business and special laws, regulations, etc. for non-Japanese companies
□ Market information
□ Ads and other methods of market exposure
□ Business systems i.e. distributions, sales.
□ Overview of Japanese companies in the same field
□ Taxation and financial information
□ Translation and interpretation services
□ Other ______
どのような日本の情報を必要としていますか?三つだけ選択してください。
□ 行政情報
□ 市場情報
□ 広告などの宣伝方法
□ 商慣習、具体的には流通システムや販売など
□ 日本の同業者について
□ 税制と金融
□ 翻訳・通訳・日本語ドキュメント作成
□ その他 ______
Q6 Why are you not interested in the Japanese market?
Please check only one of following.
なぜ日本を市場と考えていないのか、理由を以下からひとつ選択してください。
□ Domestic sales and sales to other countries are sufficient
□ Japanese language, business customs are barriers
□ High business costs
□ Government regulations, restrictions and other
□ Not ready for overseas businesses
□ Other __________________
□ 国内と他国での売上が十分ある
□ 言語や商習慣が障壁
□ ビジネス費用が高い
□ 規制や許認可など
□ 国外への進出は考えていない
□ その他 __________________
Thank you for your help.
ご協力ありがとうございました。




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資料II
日本企業向けアンケート依頼文書
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このメールは、ホームページを公開されている企業の皆様に差し上げております。今後、当社からのメールが不要な場合には、お手数ですが、件名に「不要」と書いて返信してください。d-mail@infotec-j.com
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Infotec-J(インフォテック・ジェイ)と申します。Infotec-Jは、海外企業と日本企業の相互進出における新サービスを提供する「Infotec-J グローバルコミュニケーションサイト」を運営しております。  
英語版  http://www.infotec-j.com/   
日本語版 http://www.infotec-j.com/jp/
■海外取引支援サービス研究事業(北海道石狩支庁助成事業)ご協力のお願い
「Infotec-J(インフォテックジェイ)」では、現在、北海道石狩支庁主催の平成13年度 地域新産業創造活動事業の補助金を受け、海外との交流・取引を進める上での「求められる支援サービス」についての調査・研究を行っております。日本企業の皆様にも、ご意見を聞かせていただければ、幸いでございます。

アンケートのお願い
Infotec-Jでは、ただいま海外へ進出・海外企業との取引を希望している企業のニーズ調査を行っており ます。この結果を元に海外進出希望企業への支援サービスを充実させて参ります。ご面倒とは存じますがご協力お願いいたします。
(1) 海外への進出、または海外企業との取引を考えていますか。
□海外への進出を考えている
□海外企業との取引を考えている
□今のところ、海外への進出や海外企業との取引は考えていない
「海外への進出を考えている」または「海外企業との取引を考えている」と答えた方は、(2)にお進みください。「今のところ、海外への進出や海外企業との取引は考えていない」と答えた方は、(8)にお進みください。
(2) (1)で進出や取引を考えていると答えた方にお聞きします。いつ頃を予定していますか。
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011年以降 年 -- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月頃
(3) どこの国(都市名)への進出、または取引を考えていますか。
(4) どのようなビジネス形態での進出、または取引を計画していますか。下記の中から、1つだけお選びください。
□外国に現地法人をつくる
□海外企業とビジネスパートナーになる: 業種
□海外で商品を販売したい:商品の種類
□その他
(5) 海外進出や海外企業との取引にあたり、どのような情報が必要ですか。下記の中から、1つだけお選びください。
□現地の行政情報(税金・誘致支援・法律等)
□現地の市場情報
□地域情報
□その他
(6) 海外進出や海外企業との取引にあたり、どのようなことで困っていますか。下記の中から、1つだけお選びください。
□言葉の問題(翻訳者・通訳が自社にいない)
□海外向けPRパンフレットづくりのノウハウ
□海外向け商品紹介マニュアル作成ノウハウ
□契約の問題
□ビジネス交渉の問題
□外国の商習慣の把握
□レートの問題
□その他
(7) 翻訳業務・外国語版PRパンフレット・商品紹介パンフレット・webサイト制作など、海外進出・海外企業との取引に向けての支援サービスがあれば利用しますか?
□はい □いいえ
(8) (1)で「今のところ、海外への進出や海外企業との取引は考えていない」と答えた方に質問します。 海外との取引を考えていない理由を、下記の中から1つだけお選びください。
□国内での売上で十分
□言語や商習慣が障壁
□ビジネス費用が高い
□規制や許認可など
□国外への進出は考えていない
□その他

ご協力ありがとうございました。なお、アンケートにご記入いただいた貴社の情報は、他者に開示しないことを固くお約束しますとともに、調査結果を公表する場合は、すべて統計処理のあとといたします。

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Infotec-J(インフォテック・ジェイ)代表 山本
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グラデュウス・マルチリンガルサービス株式会社
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